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『 妹 』(総集編)~「年下の女(ひと)」より改題

 『 妹 』
作:浜崎伝助

(登場人物)

夢子(女):高校卒業後、美容師を志して日本海の海辺の町から大阪に出て来て、昼は専門学校に通い、夜は居酒屋でアルバイト。美容師の資格取得後は、田舎へ帰り、美容室を営む叔母の下で働くようになる。

浜崎(男):夢子がアルバイトをしていた居酒屋の常連客で、職業は、自称「ヤの付かない自営業」

(あらすじ)

 居酒屋の店員と客として知り合った二人が、親子ほどの年の差を乗り越えて友情を育み、年の離れた実の兄妹のように親しく交流を深めて行く、そんなほのぼのとした(?)お話です。「年下の女(ひと)」シリーズとして連載してきたものを総集編として纏めるに当たって、タイトルを『妹』と改めました。



(1)

 高校卒業後、美容師を志して日本海の海辺の小さな町から大阪に出てきた女、昼間は専門学校に通い、夜は小さな居酒屋でアルバイトをしていました。
 
「いらっしゃい」
「あれ? 新人さん?」
「ああ・・この娘? 先週から来てもらっているんですわ」
「そうなんや。取り敢えずビールね。後は・・・」
 
 男は、週に1~2回はやってくる店の常連で「浜崎」、店主からは「浜ちゃん」と呼ばれていました。
 
「浜崎さん、お仕事は何をされているんですか?」
「はは・・浜ちゃんでええよ。僕の仕事ねぇ~ まあ、ヤの付かない自由業かな?」
「え?」
「まあ、僕の仕事のことはええやん。それより、夢子ちゃん、昼間は学校に通ってるんだって?」
「はい。美容師になりたいんです」
「それで、田舎から一人で大阪に出てきたの? えらいんやね」
 
 以来、親しく話を交わすようになり、女は問われるままに、両親を早くに亡くしたことや将来の夢を語ります。そして、同じ専門学校に通う恋人が居ること・・・
 
「ええなあ若い子は夢があって・・」
「え! 浜ちゃんって幾つなんですか?」
「はは・・まあ、亡くなったあんたのお父さんよりは、少し若いかな?」
 
(2)

 その頃、男は、紆余曲折の末、ある専門職に就き、大先輩の事務所に机を置かせてもらっていましたが、当時は駆け出し、何をするにも時間がかかって、よく徹夜をしていました。
 
 そんな、ある日のこと・・

 男が、徹夜明けで、出来上がった書類をファックスで関係先に送り、ほっと一服していると、一本の電話。
 
「はい。〇〇事務所、浜崎です」
「・・・・・」
「どなたですか?」
「私・・・・」
「どうしたんや! こんな時間に!!」
「・・・・・」
「泣いとったら、わからんやろう!」
「・・・・・」
「今、どこに居るんや?」
「ライオン橋の前・・・」
「わかった。すぐに行くから、そこを動くなよ!」

 男は、電話を切ると、まだ日も明けきらぬ街を駆け出しました。
 通称・ライオン橋、難波橋の欄干にもたれて、女は佇んでいました。


ライオン橋②
 

「どうした?」
「ほんまに来てくれたんやね」
「アホ! あんな電話を受けて、ほっとけるか!」
「ありがとう。でも、思いっきり泣いたら気も晴れたわ」
「なら良いけど・・また、あいつのことか?」
「・・・」
「そやから、あんな奴止めとけって言うたやろ?」
「・・・」

「ま、ええわ。それより、腹減ってるやろ? 言うても、まだどこも開いてないしな・・」
「浜ちゃん、今日、仕事は?」
「今日は徹夜明けやし、もう休むわ」
「なら、ちょっと付き合ってくれへん? 海が見たいんよ」
「ほな、須磨でも行くか? そろそろ電車も動き出すやろ」
「うん!」
 
 男の腕を取って歩き出す女・・
 
「浜ちゃんがお父さんなら、良かったな」
「アホ! まだそんな歳じゃないぞ!」
「なら・・・お兄さん」
「ま、その辺で勘弁してやるわ」
「あはは・・・」

(3)

  JRの始発に飛び乗って「須磨駅」に降り立った二人は、白々と夜が明け始めたばかりの人気のない海岸に向かいます。
 
 波打ち際まで駆け出す女、後を追う男・・
 
「やっぱり・・海はいいわ」
「田舎が恋しくなったか?」
「うん・・」
 
 砂浜に腰を降ろして、佇むふたり・・
 
「浜ちゃん、ひとつ聞いていい?」
「うん。なに?」
「人間ってさ、どうして生きてるんやろうね?」
「えらく難しい事、考えてるんやね?」
「なんか、いろいろあってね・・・・」
「昔ね。中学生の頃かな? ある本に、こんなことが書いてあったんよ」
 
   弟子:人は、何ために生きているんでしょう?
   師匠:それはな、それを知るために生きているんじゃよ。
 
「ふ~ん」
「だからね。急ぐことはないんよ」







そうだね。私、まだ19だもん♪」
「そうそう」
  
 男の肩に頭を預け、海を見つめる女・・
  
「どうした? 涙なんか流して」
「・・・・」

「で、夢子、これからどうするの?」
「私ね、資格を取ったら、田舎に帰ろうかと思ってるんよ」
「田舎って言うても、お父さんもお母さんも、もういなかったんじゃないの?」
「うん。でもね。叔母さんが小さな美容室やってて、『いつでも帰っておいで』って言ってくれてるんよ」
「そうなんや。もう、大阪が嫌になったか?」
「ちょっと疲れたかな?」
「まあ・・いろいろあったからな」

「浜ちゃんは、これからどうするの?」
「いつまでも先輩の所に居るわけにはいかないから、独立するつもりだよ」
「浜ちゃんも大変だね」
「まあ・・好きで選んだ道やからね」
「夢を追い続けるオッサン! オッサンも頑張ってや!」
「小娘の癖に、偉そうなこと言うんじゃない!」
「えへっ・・でもさ。浜ちゃんって人のことばっかり考えて・・もっと自分を大事にしないと駄目だよ」
「はは・・こういうのを『負うた子に教えられ』って言うんやろな」

「また、会えるよね?」
「もちろんだよ。けど、僕は、お父さんやなくてお兄さんやからね。間違えたらアカンよ」
「あはは・・・お兄さん」 
(4)

 その後、女は、美容師の資格を取り、美容室を営む叔母を頼って田舎に帰ります。そして、男は、大先輩の事務所から独立して自分の事務所を構えますが、仕事以外の雑用も多く、好きな釣りも封印して、土日関係なく事務所に出ていました。

 そんなある土曜日のこと、男が、午前中で予定の仕事を終え、そろそろ昼に出ようかなと思っていると、一本の電話。
 
「はい。浜崎事務所です」
「よかったぁ~ お休みかと思った」
「ん? 夢子?」
「は~い。覚えていてくれたんや~」
「どうしたん?」
「専門学校時代の友達が結婚することになって、披露宴の二次会に呼ばれたんで、出てきたんよ」
「そうなんや」
「浜ちゃん、お昼まだなんでしょう? なんかご馳走してよ」
「いいけど・・パーティは何時から、どこであるんよ?」
「6時から〇〇ホテルだって」
「で、今どこに居るんよ?」
「大阪駅に着いたところ」
「ほな、緑の窓口辺りで待ってて。20分以内に行くから」
「判った」
 
 ヒルトンプラザのとあるレストランに落ち着いたふたり・・
 
「5年ぶりになるのかなぁ~」
「うん。浜ちゃん、変わらないね?」
「いや、苦労が多いからね。白髪も出てきたし・・もういいおじさんだよ」
「ううん。田舎のおじさんたちから比べたら、素敵なお兄さんだよ」
「ありがとう。それにしても、夢子は雰囲気変わったね。綺麗になったし・・」
「はは・・私も、もう25。大人になったんよ」
「で、田舎で良い男(ひと)見つかったんか?」
「・・・・」
(5)

  男が、友人の結婚式に出席するために大阪に出てきた女との再会を果たしてから、さらに数年が経過します。10代の頃に知り合った女も、いつしかアラサーと呼ばれる年齢になっていました。
 
 そんなある日のこと、女から男の下へ1通の封書が届きます。
 結婚披露宴の招待状と共に、「父親代わりとして、結婚式にも参列して欲しい」旨の自筆の手紙が添えられていました。
 
 そして、結婚式当日・・

 披露宴も中盤に差し掛かった頃、司会者が、男の耳元で囁きます。

「新婦が希望されてますので、一曲お願いできますか?」
「いいですけど・・何も用意してないよ」
「通信カラオケのセットがありますから、大抵の曲は、用意できますよ」
「わかりました」
 
 司会席に戻った司会者が、マイクに向かって・・
 
「それでは、この辺で、浜崎様に、お祝いのお歌を頂戴したいと思います。浜崎様は、新婦が、大阪時代に公私共に大変お世話になった方で、本日の結婚式にも、父親代わりとして出席していただいております。それでは浜崎様、宜しくお願い致します」
 
「ただ今ご紹介頂きました、浜崎です。〇夫君、夢子さん、本日は、本当におめでとう。父親代わりとのご紹介を頂きましたが、私としては、新婦が19歳の時に知り合って以来、歳の離れた実の妹として接してきたつもりですので、勝手ではありますが、夢子さんの本日の門出に、かぐや姫の『妹』を贈りたいと思います」

(6)

 時は流れ・・・

 とある月末の土曜日のこと、男が、
来週の予定を確認しながら、「今月もなんとか乗り越えられたな」なんて、一人感慨に耽っていると、一本の電話。
 
「はい。浜崎事務所です」
「あ! 浜ちゃん? ワタシ! ワタシ!!」
「ん? 夢子? えらい久しぶりやないの? どうしたん?」
「専門学校時代の友達のお母さんが亡くなって、お葬式に出るために出て来たんよ。今、大阪駅に着いたところ」
「そっか・・大変やな」
「2時に、一緒に行く友達と大阪駅で待ち合わせしているんだけど、その前に少し逢えない?」
「ほな、昼飯でも食べるか? でも、葬式に出るんやったら一杯呑むわけにもいかんよな?」
「私、行ってみたいところがあるんやけど」
「どこ?」
「パンケーキで有名な喫茶店が、大阪にも出来たと聞いたんだけど・・判る?」
「ああ『星乃珈琲』かな?」
「そう、それそれ。大阪の友達の話だとオムライスも美味しいって」
「ほな・・『泉の広場』は、判るよな?」
「うん」
「じゃあ、泉の広場まで行っといて。僕もすぐに出るから、11時には行けるわ」
 
 
 
 
 
 


「ほんまに久しぶりやな。夢子の結婚式以来やから5年ぶりか?」
「その節は、大変お世話になりました」
「あはは・・ちゃんとした挨拶も出来るようになったやないか。幾つになったんや?」
「三十四」
「ほう。知らんうちに、僕よりお姉さんになったやね」
「あはは・・まだ『永遠の30歳』ごっこしてるん?」
「いや、最近は誕生日ごとに歳をとって、今は32歳や」
「ねえねえ、そんなことより・・浜ちゃんはどれにする?」
「僕は、普通のオムライスが良いわ」
「ほな、この『洋食屋さんのオムライス』やね。私は、この『○▽*$%&+?』にするわ」
「なんやそれ? 舌を噛みそうやな」
「う~んとね。『海老とモッツアレラのトマトクリームオムライス』だって」
 
・・・中略・・・
 
「それはそうと、旦那さんとは仲良くやってるのか?」
「うん」
「子供は?」
「それがね・・今、ちょうど三か月目なんよ」
「おう。それはおめでとう! ビールで乾杯するわけにもいかんから、コーヒーで乾杯しようか?」
「ありがとう。生まれたら、浜ちゃんの孫みたいなもんだね?」
「あほ! 僕は、夢子のお兄さんなんやから、伯父さんやろ!」
「あはは・・そうやったね」 

(完)
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『 明日の空 』(総集編)

 『 明日の空 』

作:浜崎伝助

(1)

 男は、深い悩みを抱え、呑んだくれて夜の街を俳諧していた時、一人の女と出会います。女は、とある店の従業員、明るく振舞いながらも、どこか寂しげな影のある女でした。
 何度か話をするうちに、二人には共通点がいくつもあり、会うたびに話が弾み、次第に親しく交際するようになります。 
 ただ、互いに家族を抱えて生活苦に喘ぐ身、
月に1~2度 決まったお店で食事を共にするのが精一杯。 

 それでも楽しい日々が続き、3年が経過した頃、女からの突然のメール・・・

「しばらくお会いできそうにありません。また連絡します」
「わかった。連絡を待ってるよ」
「梅雨は明けたようですが、私はどしゃぶりの雨の中です。雨が止んだら連絡します」

 それっきり連絡が途絶えます。

(2)
 
 元々、お互いの本名も住まいも知らないまま、メールだけで繋がっていた二人。女からの連絡が途絶えると、もう連絡の取りようがありません。
 男は女の影を追い求め、女と出会った店に足を運びます。
 もちろん、そこには女の姿はありません。
 男は女の源氏名を呟きます。

「サチコ・・・サチコ・・・」

 男は、再び酒に溺れる日々を送るようになって行きます。
 そうなると、せっかく上手く回り始めていた仕事にも行き詰まり、何もかもが嫌になり、自暴自棄になった男は、全てを捨てるつもりで、旅に出ます。
 
 大好きな海の見えるホテルに宿を取り、近くの居酒屋へ出かけました。
 旦那さんは元漁師だったという女将さんが、たった一人で切り盛りしているカウンターだけの小さな居酒屋。
 小さなCDラジカセから流れてきたのは「さだまし」の歌声。
 
「お客さんも、お好きですか? さだまさし」
「そうやね・・・」
「このCD、夫の形見なんですよ」
「そうなんですか? ご主人、亡くなったの?」
「お客さん? 何があったか知りませんけど・・元気を出さないと駄目ですよ!!」
「え!」
「そんな暗い顔をしていたら、幸せの女神も寄り付きませんよ」
「・・・・」
「ほら、さださんも唄ってるじゃないですか」 
 
 ♪しあわせになるために 誰もが生まれてきたんだよ~
   悲しみの花の後からは 喜びの実が実るように~♪

 男は、はっと我にかえります。

(そうだ! 今、こんなところで死んだりしたら・・・あの女(ひと)を幸せにするという約束が果たせなくなる。頑張って生き抜いて、あの女(ひと)からの連絡を待たなければ・・・)

(3)

 女からの連絡が途絶えて1年余りが過ぎようかと言う、ある日のこと、男は、思い切って女に短いメール送ってみました。
「元気にしてますか?

 
「嬉しいです。実は・・・」
 この間の事情と現況を知らせる、長い長い返信メールが届きます。

「また会ってもらえますか? あなたに会いたい」
 「僕も話したいことが一杯あるよ。じゃあ、例の店で待ってるね」

 こうして、約1年間のブランクを乗り越えて再会を果たしたものの、二人の状況に大きな変化はなく、互いに家族を抱えて生活苦に喘いでいました。逢いたくても逢えない日々が続きます。お互いを結ぶ糸は、夜中に交わすメールの交換だけ・・・

 ある日、男は女に、こんなメールを送ります。
「なかなか逢えそうにないけど・・ ♪生きていたなら~ いつかは逢える 夢でも逢えるだろう~」
 女から返信が届きます。
「大変そうだけど、頑張ってね。 ♪生きていたなら~ いつでも逢える 夢は~見たくない~」
 男は、女の言葉に勇気付けられて、さらにメールを送ります。
「そうだね。もう少しだと思うよ。 ♪たとえどんな流れていても~ お前が俺には最後の女~」

(4)

 約1年間のブランクを乗り越え、再会を果たした二人。互いに厳しい境遇にありながらも、何とか折り合いを付けて、月に1~2度の逢瀬を楽しむようになっていました。

 相変わらず、連絡手段は、深夜のメール交換だけ・・・

「あと五つ寝たら君に逢える。それを楽しみに、今週も色々あるけど頑張るよ」
「そうね。私も凹むことがあって辛いけど・・笑って逢えるように頑張る!」

 そして、前日のこと・・・

「御免。急用が出来て、明日は行けなくなったよ。来週に変更出来ない?」
「来週は、親戚の法事で〇〇市まで行かないといけないの・・」
「じゃあ、今月は、もう無理かも知れないね?」
「タイミングが悪くて御免なさい。一つ歯車が狂うと、皆駄目になるみたい。何だか、また生きてるのが嫌になって来たわ」
「そんな哀しいこと言わないでよ。生きていたなら、いつかは逢えるだろ?」
「そうね・・・あ! 見て見て、綺麗なお月様よ」
「うん、僕も観てるよ。こうしてネットも繋がっているけど、空も繋がっているんだよ」

(5)

 約1年間のブランクを乗り越えて再会を果たした二人でしたが、なかなか逢えない日々が続き、メールも途切れがちに・・・
 
 時は流れ、季節も進み、いつしか秋も深まり始めていました。

 そんな、ある日のこと、女の下へ、男からメールが届きます。
「仕事も落ち着いてきたし、近々中、出来たら明後日逢えない? 君の誕生祝いもしてないし」
 女は、すぐに返信します。
「嬉し~い♪ 明後日は、午前中で仕事が終わるから、午後なら何時でも良いわよ」
「僕の方は、3時頃までは抜けられそうもないから、3時半で良い?」
「良いわよ。私、中之島のバラ園に行ってみたいから、あなたが来るまでバラ園で待ってる」
「わかった。中之島なら10分で行けるから、仕事が終わったら電話するね」

 そして、当日・・・
 
 バラ園の中を、そぞろ歩く二人、「秋の陽は、つるべ落とし」、次第に、薄闇が二人の周りに漂い始め、折り悪く、小雨まで降り始めます。

「そろそろ、行こうか?」

 突然駆けだす女、後を追う男。

「どうしたん?」

 女は、束ねた長い髪を下しながら・・・
「気持ち良いわぁ~ このまま少し歩きましょうよ」
「ちょっと待って。傘を出すから」
「いいわよ。このままで」

 女は、黙って男の目を見つめると、男の手を取って歩き始めます。

「本当に、どうしたの?」
「・・・・」

 小雨の中を、傘も差さずに歩き続ける二人、雨脚が少しづつ強くなってきます。

「さあ、傘にお入りよ」
「・・・・」

 無言で歩き続ける二人。

 女が、男の顔を見ることなく、前を見据えたまま呟きます。

「ねぇ、もう終わりにしない? 私、少し疲れたわ」
「やっぱり、あの男のプロポーズを受けるの?」
「色々考えたけど、その方が貴方の為にも良いような気がするの」
「・・・・」

 突然、駆け出す女、呆然と立ち尽くす男。

 激しさを増した雨が、都会の夜を銀色の世界に変えて行きます。
 男の目に、ゆっくりと歩き始めた女のシルエットが、映ります。
 男の胸を過る、女との楽しい思い出の数々・・・

 男は、傘を放り投げて、女の下に駆け寄ります。
 驚いたように振り返る女、無言で女を抱きしめる男。

 二人の周りだけ時が止まったように、ただ雨音だけが響きます。

(完)

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『 東京の女(ひと) 』(総集編)

『 東京の女(ひと) 』

作:浜崎伝助

 (登場人物)

浜崎(男):九州の工業高校を卒業後に上京し、丸の内にあった大手家電メーカーの本社に勤務。
明子(女):男の独身寮近くで叔母が開いていた居酒屋の手伝いの為に、秋田から上京。

(あらすじ)

 居酒屋の客と店員として知り合った二人が、一回り以上違う年の差を乗り越えて恋に落ちるが、男が一年足らずで退職して、関西の大学への進学を目指しため、女は、男の将来を思って、自らの結婚を口実に身を退くことにしたが・・・



(1)
 
 高度成長時代の真っ只中、田舎の工業高校を卒業した男は、
上京して大手電機メーカーの本社に就職を果たしたものの、大学卒コンプレックスに悩み、悶々とした日々を過ごしていました。

 そんな彼の唯一の楽しみは、社員有志で行われていた卓球サークルの練習に参加すること。
 社員食堂のテーブルを片付け、卓球台を3台置いた練習場で、思いっきり汗を流すと、鬱々とした心も晴れるようでした。

 ところが、ある日のこと、サークルの代表者からカットマンへの転向を言い渡されます。
 
 カットマンと言うのは、守備型のスタイルで、守って守って守り抜いて勝利を収めるスタイル。彼のイラチ(短気)な性格には合いません。
 
 それでも新人の悲しさ、逆らうことも出来ず、毎日毎日カットの練習をさせられます。それも、レギュラーとして試合に出ることが決まっている先輩の練習台。先輩のスマッシュをカットで返すことだけしか許されません。
 
 ストレスの発散のために参加しているはずの練習で、かえってストレスを溜め込んだ男は、
反撃に出ます。1歩踏み込んで、相手のスマッシュを思いっきり打ち返したのです。相手は、男の思わぬ反撃に足をとられ転倒してしまっため、激昂します。

「浜崎~!何をするんだ~!」
 怒鳴って、男に詰め寄ります。

 男は、無言で相手の顔を睨み付け
「ふん、馬鹿馬鹿しくてやってられんわ!」
 と言わんばかりの太々しい態度で、練習場を後にします。
 
 行き先は、毎晩のように通っていた独身寮近くの居酒屋
 
「浜ちゃん、どうしたん? 今夜は、えらいご機嫌斜めやね」
「まあ、いろいろと嫌なことがあるんよ」
「ふ~ん。まあ私も付き合うから飲もうか? 暖簾仕舞ってくるね」
「悪いね」
「その代わり、私の愚痴も聞いてよね」
「いいけど。お姐さんいつも楽しそうだから、何の悩みもないのかと思っていたよ」
「女もね、この年まで生きてくると色々とあるんよ。浜ちゃんの若さが羨ましいわ」

(2)

 田舎の工業高校を卒業後上京して、ある大企業に就職した男と居酒屋を営む叔母の手伝いのため、秋田から上京していた女、二人は、一回りほどの年齢の違いを乗り越え、密かに愛を育んでいました。
 
 もちろん、夜の世界に長年生きてきた女の叔母は、そんな二人の関係にすぐに気付きます。
 
「浜ちゃん、明子は田舎でお見合いすることになったんよ」
「・・・・」
「浜ちゃんも会社辞めて、関西の大学に行くんでしょう?」
「はい。そのつもりですけど・・・」
「じゃあ、今夜は、明子を連れて、東京タワーにでも行ってらっしゃい」
「え?どうして??」
「なんかね。二人に東京の想い出を作ってほしいんよ。だめ?」
「いや、そんなことないですけど・・・明子さんは?」
「今ね、着替えに帰ってるんよ。もう来るわよ」

「浜ちゃん、お待たせ」

 男が見慣れた、いつもの割烹着姿から私服のワンピースに着替えてきた女が顔を出し、男の前でクルっと回ってみせる。

「どう? 似合う?」
「いやぁ~。いつにもまして綺麗やわ」
「ふふふ。浜ちゃんもおじょうずが言えるようになったのね」
「え! お世辞なんかじゃないよ! 僕は、正直に感想を述べてるだけ・・」

 そんな二人のやり取りを、微笑ながら聞いていた女の叔母が口をはさんでくる。

「もう、そんなことバカな事ばかり言ってないで、早く行ってらっしゃい!」

 
雨がそぼ降る中、東京タワーの展望台で寄り添う二人
 眼下には、霞みの中にぼんやりと広がる夜景・・・

 ・・・・中略・・・・

 地下鉄丸の内線のとある駅に降り立ち
 降り続く雨の中、一つの傘で寄り添い歩き始める二人
 
「浜ちゃん、私の部屋に寄って行く?」
「良いけど、店に戻らないでいいの?」
「叔母さんがね。今夜は出なくていいって言ってくれたんよ」
「なら、少しお腹も空いたし、なんか買って行こうか?」
「材料ならあるから、私が何か作るよ」
 
 ・・・・中略・・・・
 
「浜ちゃん、いつ出発なの?」
「今週末の予定だよ」
「そう・・・私もね、明日は秋田に帰らないといけないのよ・・・」
「お見合い?」
「父が、うるさくってね」
「・・・・」
「浜ちゃんも、受験勉強で忙しくなるね」
「・・・・」
「大学行ったら、青春のやり直し、きっと楽しいよ」
「・・・・」
 
 降り続く雨。。。

(3)
 
 会社を辞め1年間の浪人(予備校)生活の末、大学進学を果たした男。
年下ばかりの学友達との垣根も次第にとれ、第二の青春を謳歌していました。
 そんな彼の下へ、1通の手紙が届きます。差出人は、あの居酒屋の女将さん。
 
 手紙の内容は・・・

 男の大学合格を祝う言葉とともに、男の寮の仲間達が店を訪れるようになって、店が、前にもまして繁盛している事を伝え、男に対するお礼の言葉が、縷々綴られていましたが、結婚したはずの女のことが、何も書かれていません。
 
 心配になった男は、電話をかけます。
 
「あら浜ちゃん、どうしたの?」
「うん。手紙をもらったから・・・ありがとう」
「どう? 大学は楽しい?」
「まあね。それより明子さんは、元気にしてるの?」
「それがね・・・」
 
 どうやら、女が、田舎に帰り、お見合いして結婚すると言う話は、男の将来を思っての、二人の出来芝居だったらしい。
 
「浜ちゃん御免ね。でも分かってあげてね」
「・・・・」
 
 次の日、新幹線に飛び乗った男は、件(くだん)の居酒屋で女との再会を果たします。
 女は、派手なドレスを身に纏い、カウンターに顔を埋めて、酔い潰れていました。
 
「あら浜ちゃん・・・・」
「いったい、どうしたんよ!!」
「いいから、ほっといて・・・」
 
 再びカウンターに顔を埋めて泣きじゃくり始めた女と、そんな女の背中を悲しげな表情を浮かべながら、無言で見つめ続ける男。

 しばらくの沈黙の後、落ち着きを取り戻した女が、静かに語り出します。

「浜ちゃん、大学楽しそうで良かったね」
「何言ってるんよ! 僕は、明子さんが、秋田に帰って結婚するって聞いたから・・・」
「ごめんね。でも、本当に、父の薦める人とお見合いしたのよ。父と同じ町役場に務める真面目な人。」
「・・・・」
「でもね。何か違うの・・・。あの人と家庭を持って、田舎で静かに暮らすことなんて出来そうになかったのよ。それで、父に、そう言って、相手の人に縁談を断って貰おうとしたんだけど、父が怒っちゃってね。『もう、好きなようにしろ! その代わり、もうお前の面倒は見ないから、この町に二度と戻って来るな!』って。これって、勘当って言うのかな? それで、もう一度叔母さんを頼って、東京に舞い戻って来たの」
「・・・・」
「叔母さんは、いずれは店を私に任せるって言ってくれてるんだけど、前みたいに楽しくないんよね。浜ちゃんが来てくれてた頃は、本当に楽しかったんだけど・・・」
「じゃあ、僕も、これからは時々電話するし、手紙も書くよ。夏休みには、こうして逢いに来るし、大学を卒業して、現在目指している資格を取ったら、必ず東京で仕事を見つけるようにするから、それまで待っていてよ」
「あら、浜ちゃん、大学を卒業しても直ぐには就職しないの?」
「まだ、はっきりとは決めていないんだけど・・・。せっかく、大学に行かせてもらったんだから、一生懸命勉強して、何か国家資格を取ろうと思ってる。それが、僕が会社を辞めて大学に進学するのを、物心両面で応援してくれた父の希望でもあるんよ。父は、会社勤めをしながら合格した『社会保険労務士』という資格を持っているんだけど、僕には、それ以上の資格を取って欲しいようなんよ」
「国家資格? 相当難しい試験に合格しないといけないんでしょう?」
「在学中に合格出来なかったら、卒業後も、何年かは浪人する覚悟なんよ」
「浜ちゃんが、その資格を取れたとして、いったい幾つくらいの時になるの?」
「何とか頑張って、30歳までには合格したいと思ってるんだけどね」
「じゃあ、私は・・40も半ばになっちゃってるかも知れないね・・」
「・・・・」
「私も、そんなに長く待てないし、浜ちゃんも、その頃には、私なんかより、もっと若くて可愛い女(ひと)の方が良くなるわよ」
「・・・・」
「だからね。私たちは、やっぱり、ここでお別れした方が良いと思うのよ」
「・・・・」
「浜ちゃんには、浜ちゃんにお似合いの女(ひと)が、きっと現れるわよ」
「・・・・」


(完)

(あとがき)
 
   ところで、浜崎が明子さんと知り合った頃は、まだ高校を出たばかりの19歳
 いくら社会人になっていたとは言え、一人で居酒屋さんに入り浸ったりしていて、良かったんでしょうかねぇ?(笑)

 因みに、このモデルになった女性・明子さん
 本当は、秋田に帰って幸せな家庭を築かれたようで、既に お孫さんが何人もおられるとか・・・ 
 それでも、浜崎の思い出の中に現れる明子さんは、今も30代前半の綺麗なお姉さんのまま。 
 浜崎はと言えば、その後少し歳を重ねて、いつの間にか「年上の男」になっちゃったようですね(笑)

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プロフィール

浜崎伝助(浜ちゃん)

Author:浜崎伝助(浜ちゃん)
お酒と音楽をこよなく愛する浜崎伝助(浜ちゃん)です。

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